ことばブログ

吃音を中心に、「ことば」について心理言語学や認知神経科学の立場からいろいろなことを考えています。

就労と吃音 - 前編 -

今日は就労と吃音について。色々と中途半端になっている記事があるものの(最近の吃音界隈〜シリーズとか)今がちょうど就活やインターンの面接時期ということでまずはこの記事から。

 今月に入ってから、吃音外来でもオンライン吃音相談でも、就労、特に就活に関する相談がちらほら。

 Twitter上でも「面接が不安」とか「吃音のことを伝えるべきか」とか、就活やインターンにおいて吃音とどう向き合うべきか悩んでいる人が多く見受けられます。

というわけで、今までにお会いした当事者の方々のお話や僕の臨床経験を踏まえて、前編では就活で吃音とどう向き合うのが良いのか、また後編ではもう少し踏み込んで吃音と合理的配慮について考えてみたいと思います。

 

当事者が抱える悩み・不安

オンライン吃音相談で今年に入って就活に関する相談を受けた件数は12件、その内よくある相談は以下の通り。

  1. 面接で上手くちゃんと話せるか不安
  2. 面接で吃音のことを伝えるべきかどうか悩んでいる
  3. 面接で吃音がバレるのではないかと心配
  4. 吃音のせいで就活がうまくいかないのでは無いか不安

これらの相談に僕がどう答えているか、もちろん個別のケースで状況は異なるものの、一貫して伝えていることを書いていきます。

 

「流暢に話せる=ちゃんと話せる」 とは限らない

吃音のある人は、流暢に話せることが「ちゃんと話せる」とか「話が上手い」こととイコールであると思い込んでいる場合が多いです。でも本当にそうでしょうか?

そもそも「話す」というのはコミュニケーション手段の1つで、就活の面接に関していえば自身のことや自分の考えを相手に伝えるために用いる1つのツールです。

言い換えると、相手に自分を伝える手段は「話す」という行為に限られたものではないし、コミュニケーションは「話す」だけで円滑に行われるのかというとそうではないということになります。

じゃあ「話す」以外にコミュニケーションに関わってくるものは何か?例えば「アイコンタクト」であるとか「姿勢」「態度」「仕草」など、様々ありますね。

加えて、「話す」についても、“流暢さ”が全てではありません。「声のトーン」「話す速度」「声の大きさ」などのいわゆる『話し方』の要素はもちろん、「話題」「会話の組み立て」「主張の論理性」「質問への対応力」などなど、『内容』についても様々な要素があり、これらを総合して話が上手いかどうか、は決まるのではないでしょうか。

 

吃音のある人はどうしても「流暢に話す」ことに注力しすぎるせいか、声や抑揚が小さくなったり、早口になったりということが臨床上でも多くみられます。

どれだけ立派なことをいっていても、声が小さく早口であったら、相手からするととても聞き取りづらく、印象は決していいものではないはずです。

また、吃音のある人の多くは、吃ることを隠そうと言い換えを駆使します。しかしこの言い換えをすることで回りくどい言い方になったり、論理性が破綻してしまったりと、自分が意図したことがわかりやすく相手に伝わらない事態となってしまう可能性が十分にあります。

つまり、どもらないで話そうとすればするほど、“流暢さ”以外の要素で「話が下手」になってしまいかねないということです。

「流暢に話す」ことももちろんコミュニケーション上では大切なことです。しかしそれはあくまでも様々な要素の中の1つにすぎないこともまた事実です。

面接は流暢に話せるか、だけを見ているのではなく、コミュニケーション能力全般やその人の人柄や物事の考え方など、様々な側面を見ているはずです。

流暢に話すことに拘るあまりに、その他が疎かになりマイナスイメージを与えてしまっては本末転倒ですね。

面接の目的は「流暢に話す」ことではなく、自分の人となりを相手に伝えることです。そのことを忘れずに、“流暢さ”以外の『話し方』や『内容』の要素をスキルアップすることが大切なのではないでしょうか。

 

カミングアウトは慎重に!『吃音の人』で終わらない.

 面接で吃音のことを伝えるかどうかはとても難しい問題だと思っています。もちろん「吃音がある」という理由だけで不採用とされることは法的*1にも道義的にも許されてはならないことです。

ただ、企業側もボランティアなどではないわけで、少しでも優秀で自社とマッチした人材を必要とするのは当然のことですね。

「私は吃音があります。」

「話すのが苦手で電話は苦手です。」

など、自分に吃音があることをただ伝えたり、配慮を求めたりするだけでは、企業側にとっては基本的にマイナスイメージにしかならず、『吃音の人』として見られて終わってしまうでしょう。

じゃあカミングアウトしない方がいいのかとというとそうとも言えません。ただ判断は難しいです。

特に難しいのは、自分の名前や電話、挨拶などの特定の場面やフレーズでのみ吃音が出る場合。

面接では最初の自己紹介さえ乗り切ればあとは上手くやれる場合も多いでしょうし、面接官には気づかれない可能性も十分にあります。

そのような方でどうしても吃音であると知られたくない場合は隠し通すのも1つの手でしょう。

ただし、その場合その企業に就職してからが問題になります。

吃音を隠して入社して、その後カミングアウトする方がハードルは高いと考えています。この辺の話は次回に持ち越しますね。

一方で、日常的に吃音が出る方の場合は面接ではじめに吃音のことを伝えることを僕は勧めています。

吃音を隠そうとすればするほど余計な工夫をして上手く話せないことも多いので、予め伝えてしまった方が気持ちの面でも症状としても楽になることでしょう。

また、緊張している・人見知りといった誤解を防ぐことにもなります。

ただし、先ほど言った通り、ただ「吃音があります」と伝えてはダメです。

 じゃあどうしたらいいか、

必ずポジティブな内容で吃音の話を終えること

上手く話せないこと」を上回る自分のセールスポイントを売り込むこと

この2点が必須だと思います。

「吃音があるが、その分コミュニケーションでは〇〇を意識している」

「話すのは苦手だが、〇〇には自信がある」

「今まで吃音で〇〇に困った時は〜してきた」

など、吃音がある事実は伝えつつも、自身がそれに対してどう向き合ってきたか、また企業にとって自分が有益な人材でありうることをしっかりと発信することで、面接官の印象も大きく変わるのではないでしょうか。

吃音のある人も努力は必要

ここ数年は学生側の売り手市場と言われているものの、やはり大手や優良企業に入社するハードルは高く、どの学生もかなりの準備をして自分を売り込んでいると思います。

同じ土俵で就活に取り組む以上は、やはり吃音の当事者側もそれなりの努力をしなければならないと僕は思います。

ただ誤解をして欲しくないのは、“流暢に話す努力”をしなければならないという訳ではないということです。

ここまで述べてきたような、“流暢さ”以外のコミュニケーション能力を高めるとか、自分を売り込む術を身につけるとか、企業に必要とされるようなスキルを習得するとか、多くの就活生が行なっている努力を、同じかそれ以上にしなければならないということです。

昨今の世の中は『対人・コミュニケーションスキル』が非常に重視され、吃音のある人には逆風が吹いているのは事実です。

ただ、それをただ憂いて、吃音を理解してくれと嘆いてもそう上手くは行かないと思います。

 

吃音のある人の多くが苦手とする「電話」であるとか「朝礼」であるとかは、いわば誰にでもできることで、代わりはいくらでもいるはずです。

「吃音があると誰にでもできることができない」、というネガティブな捉え方もできますが、逆に「電話くらいできなくても、この人は他より〇〇が優れているから働いて欲しい」というように企業側に思われるようになることも可能だと思います。

もちろんそれは簡単なことではないかもしれませんが、『吃音をゼロにする』よりはよっぽど現実的です。

企業が学生に求めていることは“流暢に話すこと”だけではないと思います。

就活準備はお早めに

吃音外来で働き出してから毎年、就活直前になり相談に訪れる方が大勢いらっしゃいますが、不安を減らすにしろ、苦手なフレーズを解消するにしろ、吃音の症状を軽減するにはある程度の時間がかかります

また、直接的に吃音の治療を受けなくとも、就活でどう振る舞うべきか、どう準備していくかを吃音の相談に乗っている専門家に事前に相談して準備することはとても有効だと思います。

まだまだ数は少ないですが、徐々に吃音を診ている医療機関・専門家は増えています。

ただその多くは初診まで数ヶ月待ちというのが現状です。

今就活真っ最中の方はもちろん、来年・再来年に就活を控えている方は、お早めに専門機関・専門家へご相談されることをオススメします!

私がやっているオンライン吃音相談でも対応していますので、興味のある方は初回無料相談を利用してみてください。

まとめ

就活は吃音のある方が直面する高い高いハードルです。

完全に流暢に話せるようになることが極めて難しいという事実はありますが、だからと言ってできることが何もない訳ではないはずです。

もし今就活はもちろん、アルバイトなども含めて面接で上手くいかず悩んでいる方は、ぜひこの記事の内容を参考にしてみてください。

少しでもお役に立てたら幸いです。

 

私はこんな人です.

yasu-yada.jimdo.com

吃音のご相談はこちら.

www.online-stuttering.com

*1:障害者差別解消法