ことばブログ

吃音を中心に、「ことば」について心理言語学や認知神経科学の立場からいろいろなことを考えています。

吃音のある人がSTになることをオススメしないワケ

今日はだいぶ前の記事“吃音のある人がSTになるということ”で

 

『「吃音に興味があるからSTになる」という考えの人には、STになることをオススメしない。』

 

と書いたものの、その理由を書いていなかったので今日はそのことを。

 

ご存知の通り僕自身が吃音のあるSTである。ではなぜこんなことを言うのか。

 

まずは以前の記事で述べた通り、STとして働く上で吃音はかなりの障壁になるということがある。

 

STは「話す・聞く・読む・書く」に加え「食べること」に困難を抱えている方の評価

や訓練を行うことが主な業務である。その中で、特に検査は定型文を教示として示さなければならない場合が多く、日頃言い換えを駆使している吃音者にはなかなか厳しいものがある。

 

当然ながら吃音臨床をする上でも障壁になるが、この点については前出の記事を読んで欲しい。

 

 

ではこれ以外にどんな理由があるのか。それは主に次の3つ。

① 吃音についてST養成校で学べることはごくわずか

② 吃音臨床を行える場はごくわずか

③ 研究の道に進みにくい

 

 

① 吃音についてST養成校で学べることはごくわずか

 

僕自身はなぜSTの養成校に進んだかと言うと、単純に吃音について知りたかったからである。なので正直STと言う職業自体には全く興味がなかった。

当時は今以上に吃音に関する情報がなく、専門とする人も少なかったのだが、自分の○○大学には吃音を専門としている先生がいる、と言うことを知り、進学先に選んだ。

 

しかしいざ入学してみると吃音に関する授業は4年間で15コマのみ(現在のカリキュラムがどうなっているかは知らないが)、その中で吃音の基礎・小児の臨床・成人の臨床等を学ぶわけで、当然それぞれの中身はだいぶ浅い。

恐らく僕の出身校は吃音に関して力を入れている方だとは思うが、それでもこの程度である。

 

この15コマと言うのは非常に少なく、失語症発達障害などについては座学と演習でそれぞれ30コマ以上あったように記憶している。

 

これだけ吃音について学ぶ機会が少ないのには当然理由があるわけで、STの国家試験に出題される割合が極めて低いのである。

 

STの国家試験は200問で構成されており、失語症高次脳機能障害、嚥下障害、発達障害などの障害学はもちろんのこと、言語学や音声学、音響学、基礎医学、心理学などなど、様々な分野の問題が出題される。

 

この200問のうち吃音に関する問題はわずか数題(詳しい数は忘れた)、言ってしまえば吃音のことを一切知らなくてもSTになることは可能であるということだ。

なのでこの現状は致し方ないのかもしれない。

 

正直吃音にしか興味がなかった僕にとっては養成校の4年間は辛い思い出の方が多いが、今思えばSTの免許をとっていなかったら今どうなっているのかもわからないので結果オーライというところ。研究の上でも他の発話・言語障害に関する知識は役に立っているし。でも僕のケースは本当にたまたまだろう。

 

純粋に吃音のことを知りたい、研究したいという場合は養成校に行くよりも他大学に行った方がいいだろう。まだまだ数は少ないものの僕のいる研究室を含めST養成校以外で吃音を研究対象としている大学・研究室はある。

もし知りたいという方がいれば是非僕に連絡を。

 

 

 

② 吃音臨床を行える場はごくわずか

 

吃音のある人がSTになった場合、吃音の臨床をしたいというケースが多いと思う。

しかしこれはなかなかハードルが高いのが現状である。

 

吃音の臨床に携わることができる場としては

(a)吃音外来を開設している医療機関

(b)療育センター等の小児を対象とした施設

(c)一般病院の音声外来

 

などだろうか。

吃音の臨床に携わる機会は(a)(b)(c)の順に高いだろうが、同時にその数は少ない。

 

(a)については全国に数える程しかなく、全国どこへでも行くつもりで常にアンテナを張っていないと求人を見つけることは難しいだろう。

 

(b)はだいぶ可能性が上がるものの、小児領域は人気で常勤での求人が少ないので少し苦労するかもしれない。ただ一定の割合で吃音の相談はあるようなので一番現実的なのかもしれない。

 

(c)は一番現実味が少ない。ただここ数年で新しく吃音外来を開設したり吃音の受け入れを始めたという病院もあるので、自分で動いて新しく開拓する!という気概のある人ならこれもありだろう。

 

STとして一生仕事を続けて行くつもりの人ならば(b)(c)のいずれかを選び、STとしてのスキルを磨きながら吃音にも少しずつ取り組むくらいがキャリア全体を考えると正解なように思える。

 

ちなみに自分は養成校卒業後にほとんど臨床をせずに非養成校の大学院へ進学、非常勤で吃音の臨床をやっているという感じなので、STとしてのキャリア形成は絶望的である(笑)

もっとも、僕自身は自分のアイデンティティはSTではないと思っておりあくまで1つの資格・手段だと考えているのでそれでいいのだが。

 

 

 

③ 研究の道に進みにくい

さて、3つ目の理由について。主な理由は上の2つなのだが、もし吃音の研究をしたくてSTを目指そうという人がいればと思いこれも理由に挙げた。

 

これは吃音に限った話ではないのだが、研究に従事しているSTは少なく、大学院教育が充実しているとは言えないと思っている。特に基礎研究をしたいという人は養成校に行くことは考え直した方がいいだろう。

 

もちろん養成校にも修士課程・博士課程を設置しているところはあるが、指導教授は基本的にSTであり、臨床研究がメインである。加えて吃音を専門にしている養成校系の研究室はごくごくわずかなので、選択肢も少ない。

 

もちろん素晴らしい研究をされているSTいるが、基礎研究に手を出している人は少ない。また、これはリハ業界の風潮なのかわからないが、「まずは臨床」という風潮がある気がする。この業界では数年臨床経験を積んでから進学するケースがほとんどなようで、自分のようにストレートで大学院へ進学するケースはレアらしい。

 

個人的には(非養成校の)修士課程はストレートで行った方がメリットがあると思っているが。STの大学院進学については自分が無事博士課程を終了できたら記事にしたいなあと。

 

 

 

ところどころ脱線してしまったが、僕は上記3つの理由から吃音のある人がSTになることをオススメしない。加えて、吃音を客観視できず自身もまだ吃音に深く悩んでいる場合はなおさらである。

 

吃音に携わる方法は何もSTでけではない。学問的に言えば心理学・音響学・情報科学言語学・教育学など様々な立場からのアプローチが可能であり、純粋に吃音について研究したい場合はこういった道に進むのも1つだろう。

 

また職業についても同様である。当事者支援であれば医師や学校教員、公認心理師臨床心理士精神保健福祉士などの専門職、また他にも吃音のある人の助けになるデバイスを開発するエンジニアやプログラマーなどなど、本当に色々な選択肢があると思う。別にSTにこだわる必要はない。

 

もちろんそれでもやっぱりSTになりたい!という人もいるだろう。

そういった方で何か悩んでいることがある場合は僕に連絡をくれてもいいし、

「吃音のある、ST学生とSTの会」というものもあるので是非問い合わせてみてほしい。

 

また、実際に吃音の臨床や研究を行なっている人たちにあってみるのもいいだろう。『日本吃音・流暢性障害学会』は当事者・臨床家・研究者が参加する学会なのでちょうどいい機会かと思う。ちなみに来年度は母校開催。

 

 

 

まとめ

・吃音のある人がSTになることを個人的にはオススメしない

 ① 吃音についてST養成校で学べることはごくわずか

 →吃音の授業はとても少なく、他の科目の締めるウェイトがあまりにも大きい

 ② 吃音臨床を行える場はごくわずか

 →卒業後すぐに吃音の臨床に携われる可能性は低い

 ③ 研究の道に進みにくい

 →吃音の研究をしたいなら養成校以外にいった方が良い

 

 

質問や相談があればコメントかHPから直接連絡を。できる限りの力添えはしたいと思う。